紀元前の記憶

 

 

 あまた在る星屑の一点、その蒼の星はもう時期終焉を迎えようとしていた。

 

 神仙界を代表する種族を模った、二足歩行のその種は、授かった知恵を自らの破滅へ傾けたためだった。

 

 天翔ける巫女は、崇拝する神々に乞い願う。

「どうぞ……どうか、お願いです。もう少しだけ猶予を。彼らのためにもう少しだけ時間をお与え下さい」

 

 一神は答える。

 

「もう十分に待ち、警告も与えた。これ以上待てば“ガイア”が死に絶える」

 

 ひれ伏す巫女に投げかける言葉も眼差しも苦さを含んでいた。

 この問答は幾度になるだろうか。

 

「ですが、ですが……」

 

 溢れる涙が嗚咽をもたらし、言葉を紡げない巫女。

 頑是無い子供に言い聞かせるように、一神は言う。

 

「あの死の星を見よ。かつての文明の痕跡すら窺えぬほどの荒廃を。

 戒めとして我らは蒼の星の傍らに、あの死の星を置いた。だが、それも徒労に終わった。

 今、この機を逃せば、同じ死星がただ増えるだけ。“人の子”を排除することで、ガイアは再び息を吹き返せるのだ」

 

 ようやく巫女は問う。

 

「“人”とてガイアの一端、生命を分けて誕生したもの。

 これまで見守っていて下さりましたのに、何故此度は御自らその力を振るわれるのでしょうか」

 

「神威の巫女よ、ガイアの嘆きが聴こえるのだ」

 

 言葉をなくす巫女に、更に言い募るのは二神。

 

「そなたにも聴こえるはずだ。ガイアの悲痛な叫びが。

 ガイアは蒼の星そのもの。ガイアの生命が消えるとき、蒼の星も滅ぶ。

 ――だが、我らが手を下すのは是か? 同胞よ」

 

 言葉の後半は、強行を主張する仲間への問いかけ。

 

「我には是と。あの生き物たちの悲鳴……すべてが人の子のもたらした物。

 今ここで人の子を打ち滅ぼしても、回復にどれ程の時を必要とするか。それほどまでに荒れ果てた星に気付かぬのは、ただ人の子のみ」

 

 頑なな一神を、他二神と巫女は悲しげに見つめるばかり。もはや聞き入れてはもらえぬ諦観。

 ついに言ったのはどの神か。

 

「これより八つの命を選びとり、人の子を滅びに向かわせる。

 神威の巫女よ、止めたくば、そなたも八つの命を選び、阻止してみせよ。見事果たせれば、希望はある」

 

 二神と巫女の視線が集まる。

 

「どうか?」

「是」と二神。

「――承知仕りました」と運命を選び取った巫女。

 

 その面に浮かぶ表情は何だっただろうか。